キスはボルドーに染めて
 陽菜美は先月対応した、クレームの話を思い出しながら顔をあげた。

「でも課長。元々は私の担当外の企業ですし、今日の報告会は、社員さんが出た方が良いんじゃないですか?」

 陽菜美はやんわりと断る方向に話を持っていこうとする。

 取引先との会議となれば、フロア主任である元彼の貴志が出席することは確実だ。

 出来ることなら貴志の顔は見たくない。


 すると課長は、薄くなった頭をかきながら「そうだなぁ」と困ったような声を出す。

「相手方は、可能ならオペレーターさんも一緒に、とは言ってたんだけどねぇ。まぁ君は派遣だし。よし、じゃあ、こちらで対応しておくよ」

 課長はうんうんとうなずきながらそう言うと、片手を上げて忙しそうに去っていく。

 陽菜美はほっとため息をつくと、フロアの自分のブースへと向かった。


 陽菜美がこのコールセンターに派遣されてからもうすぐ丸三年。

 すぐに辞めていくスタッフが多い中、三年続いている陽菜美は、そろそろベテランの域に入っている。
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