キスはボルドーに染めて
 陽菜美が今担当しているのは、エイジングケアに特化した化粧品会社の問い合わせ窓口だ。

 お客様は女性が多く、問い合わせの大半は商品の使い方の説明だが、時には世間話になることもあり、普段は穏やかにゆったりと対応できるのがありがたい。

 しかし先月、別のブースで今までにない程の大きなクレームが入り、フロア全体が一時騒然とする出来事があった。


 クレームは、富裕層をターゲットにしたワインのネット販売で業績を伸ばしている企業の、商品を購入したお客様からのものだった。

 通常であれば内容を聞き取り、そのクレームに該当するマニュアルを参考に対応する。

 しかし、電話を受けたオペレーターがマニュアルの該当箇所を探し出せず、長時間待たせた結果、お客様の怒りは爆発してしまったのだ。


 本来であれば、オペレーターは自分の担当企業以外の対応はしてはいけない。

 陽菜美もはじめは横耳で聞いていたのだが、「ワインに錆びた釘やガラスの破片が入っているらしい……」という言葉を聞いて、慌ててそのブースに駆け寄った。
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