キスはボルドーに染めて
 蒼生の真っすぐな声に、スピーカーの向こうで純玲の呻くような声が漏れ聞こえた。

「なによそれ……。私のことは、あっさり手放したくせに……」

 しばらくして放たれた言葉に、蒼生は昔の傷をえぐられるのを感じながら、静かに目を閉じる。

 それでも今、自分が守り、ともに生きていきたい女性は一人だけだ。


「すまない、純玲。でも俺は、明日もう一度父親に会ってくる」

「待って! 蒼生!!」

 蒼生は、純玲の叫び声が漏れ聞こえるスマートフォンを耳から離すと、静かに画面の通話終了ボタンをタップしたのだ。


 昨夜のことを思い出していた蒼生は、ナビの案内に従いながら高速道路を降りた。

 青い案内表示に従いながらしばらく道なりに進むと、目の前に巨大な国際線のターミナルビルが現れる。

 すると多くの車が行き交う玄関口から外れた場所で、不自然に止まっているタクシーを見つけた。

 小さく目を開いた蒼生は、すぐにその近くに車を一時的に停め、タクシーに駆け寄った。
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