キスはボルドーに染めて
 純玲の説得するような声を聞きながら、蒼生は静かに瞼を閉じる。

 三年前のあの日、蒼生は自分の心に蓋をした。

 自分一人に罪を被せることで、皆を守ろうとしたのかも知れない。


 ――でもそれは、単なる俺の自己満足だ……。結局は、問題を先送りしただけ。そのせいで全てが拗れたまま大きくなった。


 蒼生は瞼を開くと静かに息を吸った。


「俺にはできない」

 蒼生の低く重い声に、純玲がくわっと目を見開くのが伝わる。

「どうして!?」

 興奮したように叫ぶ声を聞きながら、蒼生は瞼の裏に映る、愛しい顔を思い浮かべた。


 ――俺はまだ、陽菜美との未来を諦めたくない。


 蒼生は顔を上げると、ぐっとスマートフォンを握る手に力を込める。


「俺には陽菜美がいる」

 しばらくして出した蒼生の強い意志を持った声に、純玲が息を飲んだ。

「そんな! あんな子、いくらでもいるじゃない!」

 怒りをあらわにする純玲に、蒼生はゆっくりと首を振る。

「俺にとって、陽菜美は特別な女性(ひと)なんだ。失うことなんてできない」
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