キスはボルドーに染めて
 シートベルトを外した蒼生は、そっと助手席で涙を流す陽菜美の頬に手を伸ばす。

「でもなぜだろうな。兄と純玲の結婚を知った時、俺は一切涙が出なかった。ただ静かに、その状況を受け入れたんだ」

 蒼生は陽菜美の頬に零れた涙を指先で拭った。

「だからかな。ボルドーで涙する陽菜美を見た時、心が揺さぶられた気がした。泣けなかった俺の代わりに、陽菜美が泣いてくれているように感じたんだ」

「蒼生さん……」

 蒼生は優しく陽菜美を抱き寄せると、首筋に顔をうずめる。


「俺は全てを失っても、陽菜美だけは失いたくない。陽菜美との未来だけは諦めたくないんだ。だから……」

 蒼生は陽菜美の肩を支えると、真っすぐな瞳を陽菜美に向けた。

「だから、俺は皆の前で話そうと思う。三年前、俺と純玲の間に何があったのかを……」

 蒼生の言葉に陽菜美ははっと息を飲む。

 陽菜美はまだ、三年前の真実を知らない。

 もしその真実が、純玲の話の通りだったとしたら……。


 ――私はきっと、二度と立ち直れない。


 急に不安が襲い、たまらず震え出した陽菜美を、蒼生は再び抱きしめるとぐっと力を込める。
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