キスはボルドーに染めて
「蒼生さん、続けてくださる?」

 美智世の声に、蒼生は静かにうなずくと、ゆっくりと父親に視線を向けた。


「結翔くんは、私の子ではありません」

 静かな部屋に放たれた蒼生の声に、皆が一斉に顔を上げる。

「蒼生の子でないなら、誰の子だと言うんだ」

 父親は眉をひそめると、純玲に視線を送った。

 純玲は自分の手をぎゅっと握り締めたまま、下を向いて動かない。

 蒼生は再び父親に目を向けると、言葉を続ける。


「三年前、私は何も言わずにすべてを受け入れました。兄の妻に手を出した不届き者としてここを去った。そうすることで、守ろうとしたんです」

 蒼生はそう言うと、静かに純玲を見つめる。

 純玲は硬く口を閉ざし、じっと下を向いたままだ。


「お前は何を言っているんだ!」

 一輝が怒鳴り声をあげる。

 蒼生は静かに一輝を見つめると、ゆっくりと口を開いた。

「兄さん。三年前のあの日、俺と純玲の間には何もなかったんだ」

 蒼生の声に陽菜美ははっと顔を上げる。

「何もなかった……?」

「そう、何もなかった」

 その声に一輝がくわっと目を見開いた。
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