キスはボルドーに染めて
「嘘をつくな! 何もなくてどうして子供ができる! あの日、朝帰りする純玲を、お前が車で送って来た。その一部始終を、うちの社員に見られてるんだぞ!」

 一輝がドンっと机に拳を当て、一瞬部屋が静まり返る。

 その時、下を向いていた純玲がゆっくりと立ち上がった。


「結翔は蒼生の子よ……蒼生の子なのよ!」

 まるで自分に言い聞かせるかのように繰り返す純玲に、蒼生は小さく息をつく。

「純玲、もう本当のことを言ってくれ」

「違うわ! あの日、私は蒼生の子を授かった。それが事実よ!」

 純玲が再び叫び声を上げた時、おもむろに純玲に近づいた一輝が、ぐっと純玲の細い腕を取った。


「蒼生と純玲、どっちが嘘を言っている? 俺たちはあの件以降、海外に移った。俺の子じゃないなら、相手は誰だ!」

 一輝の物凄い剣幕に、純玲の顔は次第に青ざめていく。

 陽菜美はたまらずに駆け寄ると、純玲と一輝の間に割って入った。


「落ち着いてください。そんなに怒鳴ったら、何も言えません」

 陽菜美の声に、一輝は掴んでいた純玲の腕を離すと、チッと舌打ちをうつ。

 純玲はへなへなとソファに座り込んだ。
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