キスはボルドーに染めて
「ホテル……!? ま、まさか、その時に……!?」

 一輝が叫び声を上げ、純玲の元に駆け寄った。

 純玲はうつむいて涙を流したまま何も言わない。


「それで、蒼生はどうしたんだ?」

 父親が困惑した声を出した。

「俺はすぐに車で純玲を探しに行った。純玲は歩道の片隅で、肩を丸めて泣いていた」

「そんな……」

 あまりにも衝撃的な話に、陽菜美は言葉を失う。

「俺はすぐに純玲を保護して車に乗せた。そして何度も、警察と病院に行こうと説得したんだ。でも、純玲は最後まで拒否をした。俺と一緒にいたことにして欲しいと。そうでないと自分はここで死ぬつもりだと言ったんだ……」

「え……」

 あまりの辛さに、陽菜美は思わず両手で顔を覆った。

「だから俺は、純玲の話を全て受け入れた。そして、自宅まで送って行ったんだ」

 蒼生の話を聞きながら、美智世が大きく首を振る。

「そこを社員に見られたってわけね」

 ため息をつく美智世に、蒼生が静かにうなずいた。


「なんで!! なんで言ってくれなかったんだ!!」

 一輝は叫び声を上げると、純玲の両肩をぎゅっと掴む。
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