キスはボルドーに染めて
 純玲は、一輝に何度も肩を揺すられながら、じっと下を向いていたが、急にキッと泣きはらして真っ赤になった瞳を上げた。

「みんな、あなたが悪いのよ!」

 純玲は叫び声を上げると、一輝を睨みつける。


「私が不妊に悩んでること、知っていたでしょう? それなのに、お父さまもお母さまも、孫はまだか早く跡継ぎを産めと、会う度に私を責めたわ。でも一輝は、一切治療に協力してくれなかったじゃない! 私だけが毎日、病院に通い、食べたいものも我慢して、ずっとずっとそうやって暮らしてきたのよ!」

 純玲は拳を上げると一輝の胸元をドンドンと何度も叩いた。

「あの日だってそうだった。今日はタイミングをとる日だから、お酒を飲まずに早く帰って来て欲しいって言ったのよ。それなのに……」

 純玲に胸元を叩かれながら呆然としていた一輝がはっとする。

「あなたは接待だったと言って、ひどく酔って帰ってきた。今日は疲れたから明日にしたらいいだろうって、笑いながら言ったのよ。あなたにわかる? 私がどれだけ絶望したか。あの時、私の中の糸が切れたの!」
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