キスはボルドーに染めて
 耳元に響くのは大好きな蒼生の低い声だ。

 やがて陽菜美の頬にも、堪えきれなくなった涙がポロポロと零れ落ちる。

 陽菜美はにっこりとほほ笑むと、何度も何度もうなずいた。


 あの日、ボルドーの丘で見た憂いを含んだ蒼生の瞳は、今は曇りなくスッキリとして先を見つめている。

 陽菜美は手を伸ばすと、同じように蒼生の頬にそっと指先で触れる。

 涙で濡れてひんやりとした蒼生の頬はとても心地いい。


 ――あぁ、蒼生さんに私の気持ちを伝えたい。


 そう思った陽菜美は、蒼生の頬に手を触れたまま、真剣な表情を覗き込ませた。


「蒼生さん、心の底から愛しています」

 つい堪えきれずに出た陽菜美の言葉に、蒼生が小さく目を開く。

 蒼生はくすりと笑うと、陽菜美をぎゅっと抱き寄せた。


「陽菜美に、先に言われてしまったな」

 くすくすと肩を揺らす蒼生に、陽菜美は急に慌てたように、蒼生の胸元にうずめていた顔を上げる。

「ご、ごめんなさい。私つい、言いたくてたまらなくなっちゃって……」
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