キスはボルドーに染めて
 陽菜美はそれが嬉しくて、くすりと肩を揺らすと、そっと蒼生の顔を覗き込んだ。

「蒼生さん」

「なんだ?」

「でも今日だけは、許してあげます」

 陽菜美はそう言うと、蒼生の首に手をかけて、自分からゆっくりと唇を重ねる。

 陽菜美のキスに、蒼生は目を丸くした後、再び愛しそうに陽菜美を抱き寄せた。


「やっぱり陽菜美は、はちゃめちゃだな」

 今ではもう蒼生の口癖のようになったその声を聞きながら、くすくすと笑い合う二人の目の前には、大きな国際線のターミナルビルが見えてくる。

「じゃあ行こうか。あのボルドーの丘へ」

「はい。二人で行きましょう。ボルドーの丘へ……」

 二人はぎゅっとお互いの手を握り締めると、すっと開いたドアを抜けて玄関口に降り立った。


 陽の差し込む開放的なロビーを歩きながら、陽菜美はそっと隣を歩く蒼生の顔を見上げる。

 愛を失くした二人は、困難を乗り越えて、こうして本物の愛を見つけることができた。


 ――きっとこの先、どんなことがあっても、私たちなら乗り越えていける。だって私たちは、あのボルドーの丘を知っているから……。


「陽菜美」

 振り返った蒼生から、大好きな低い声が聞こえる。

「蒼生さん」

 二人は顔を見合わせてほほ笑むと、幸せをいっぱいに感じながら、前へと向かって一歩一歩進んで行くのだった。


【完】
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