キスはボルドーに染めて
こくんとうなずく陽菜美に、「私が行きたぁーい」と、どこからか沙紀の声が飛ぶ。
すると一斉に騒々しくなったフロア内で、蒼生が軽く手を上げ、再び皆が口をつぐんだ。
「さて、課長。もろもろの手続きは追ってご連絡しますが、用件はもうひとつあります」
蒼生はそこまで言うと、陽菜美に向き直った。
「ところで結城さん。この会社を辞める前に、一つ言っておくことがありますよね? えっと、彼に……」
蒼生はフロア内を見渡すと、離れた位置に呆然と立っている貴志に向かって手の平を向ける。
貴志は何か身の危険を察知したのか、「ひっ」と呻くような声を出した。
陽菜美はしばらく逡巡した後、蒼生の顔を見上げる。
すると目の前には、蒼生の力強い瞳が見えた。
陽菜美はブースの壁につけていたマグネットを取り外すと、ぎゅっと両手で握り締める。
そして「松岡主任」とわずかに震える声でそう呼びかけると、貴志をまっすぐに見つめた。
今から何を言われるのかわからない貴志の顔は、同情するほどに青ざめている。
フロア内では、事態の飲み込めない多くのスタッフが、固唾を飲んで事の行方を見守っていた。
すると一斉に騒々しくなったフロア内で、蒼生が軽く手を上げ、再び皆が口をつぐんだ。
「さて、課長。もろもろの手続きは追ってご連絡しますが、用件はもうひとつあります」
蒼生はそこまで言うと、陽菜美に向き直った。
「ところで結城さん。この会社を辞める前に、一つ言っておくことがありますよね? えっと、彼に……」
蒼生はフロア内を見渡すと、離れた位置に呆然と立っている貴志に向かって手の平を向ける。
貴志は何か身の危険を察知したのか、「ひっ」と呻くような声を出した。
陽菜美はしばらく逡巡した後、蒼生の顔を見上げる。
すると目の前には、蒼生の力強い瞳が見えた。
陽菜美はブースの壁につけていたマグネットを取り外すと、ぎゅっと両手で握り締める。
そして「松岡主任」とわずかに震える声でそう呼びかけると、貴志をまっすぐに見つめた。
今から何を言われるのかわからない貴志の顔は、同情するほどに青ざめている。
フロア内では、事態の飲み込めない多くのスタッフが、固唾を飲んで事の行方を見守っていた。