キスはボルドーに染めて
「失恋から立ち直れたのは、蒼生さんのおかげです。私にできることなら、協力させていただきます」

 陽菜美の声に、蒼生はにっこりとほほ笑む。

「これからよろしく」

 蒼生が手を差し出し、陽菜美はドキッとしながらそっと手を握った。

 きゅっと握られた指先から、蒼生の熱を感じる。

 陽菜美は慌てたように手を離すと、ドギマギとしながらうつむいた。


「で、でも……どうして私を、わざわざ引き抜こうなんて思ったんですか? こんな大きな会社なら、他に優秀な方がいっぱいいらっしゃるんじゃ……」

 陽菜美が顔を上げると、蒼生はすでにソファから立ちあがり、大きな窓から覗く真っ暗な夜景に目を向けている。

「どうしてだろうな?」

 背中を向けた蒼生から、静かに低い声が響く。

「あのボルドーの丘で、俺の代わりに、君が泣いてくれたように感じたからかな?」

「え……?」

 こぼすように声を出した陽菜美は、振り返った蒼生の瞳から目が逸らせなくなった。


「あんな泣き方、俺にはできない」

 そう言いながら小さく笑った蒼生の瞳には、今まで見たこともない程の、悲しい色が閉じ込められている気がした。
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