キスはボルドーに染めて
 蒼生のひどい言いように、陽菜美はガックリすると、力が抜けたようにソファにどっさりと倒れ込む。


 ――はちゃめちゃなのは、蒼生さんの方じゃない。


 陽菜美がじっとりと横目で見ると、蒼生は再び優雅にコーヒーをすすりだした。

 その姿は何とも堂々としていて、とても社内で厄介者扱いされているような人には見えない。


 陽菜美は、蒼生とボルドーで初めて出会った時のことを思い出す。

 あの時、蒼生がかけてくれた言葉で、陽菜美は顔を上げることができた。

 そして今日、さらに陽菜美に一歩を踏み出させた蒼生の行動や発言は、信念に裏付けされているものだということくらい、陽菜美にもわかるものだった。


 陽菜美は、今は窓の外に目を向けている蒼生の横顔をじっと見つめる。

 陽菜美の知識や興味が、この会社でどこまで通用するかなんて全くわからない。

 それでも今、陽菜美の中に確かにあるもの。

 それは“音羽蒼生という人を、もっと知りたい”ということだった。


「わかりました」

 陽菜美はそう言うと、姿勢を正した。
< 42 / 230 >

この作品をシェア

pagetop