キスはボルドーに染めて
 ――蒼生さん、いつから見てたんだろう……。


 するとうつむく陽菜美の様子はお構いなしに、杉橋が明るい声を出した。


「蒼生が秘書を連れてきたって、社内で噂になってるからさぁ、どんな子か見に来たのよ。そしたらこの子、ちょっと(とぼ)けてて可愛いね」

 楽しそうに笑う杉橋を、陽菜美はギロリと睨みつける。


 ――杉橋さんって、なんだか失礼しちゃう。


 すると頬を膨らませる陽菜美の横で、杉橋はわざと大袈裟に倒れる素振りをして見みせた。

「ちょっと!」

 陽菜美は顔を真っ赤にすると、杉橋に突っかかろうとする。

 でもそれはすぐに、蒼生のため息に阻まれた。


洸平(こうへい)。何しに来たんだ。用事がないなら帰れ。仕事の邪魔だ」

 蒼生はやけに機嫌が悪そうにそう言うと、手で杉橋を追い払うようにする。

「えぇ、なんだよ、その言い方。蒼生って普段から連れないけどさぁ、今日はやけに突っかかるなぁ」

 杉橋は口を尖らせると、チラッと陽菜美に目をやった。
< 50 / 230 >

この作品をシェア

pagetop