キスはボルドーに染めて
「えぇ!? ちょっと君、大丈夫!?」

 杉橋も叫び声を上げると、慌てて陽菜美の側に駆け寄る。

 陽菜美は杉橋に抱きかかえられ、なんとか身体を起き上がらせた。


「す、すみません……」

 驚いて倒れるなど、なんとも無様な姿だ。

 恥ずかしさでいっぱいになりながら顔を上げた陽菜美は、目の前に杉橋の顔が見え、さらに顔を真っ赤にした。

「ご、ご、ごめんなさい」

 両手で杉橋の胸元を押すように立ち上がった陽菜美は、今度は扉の方から誰かの視線を感じて、はっとする。


「朝っぱらから、何してるんだ」

 腕組みをして壁にもたれかかりながら、怪訝な顔つきでこちらを見ているのは蒼生だ。

「あ、蒼生さん……おはようございます」

 陽菜美の声に、蒼生は不機嫌そうに息をつくと、そのまま静かに部屋の奥へと入って来る。

 デスクに鞄を置いた蒼生は、上着を脱ぐとやっと陽菜美と杉橋の方へと顔を向けた。

 陽菜美はさっきのやり取りを、蒼生に見られたことに、心の奥がソワソワとしてくる。
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