キスはボルドーに染めて
「ははーん」

 杉橋はしたり顔でうなずくと、突然、陽菜美の前にぐっと顔を覗き込ませる。

「ねぇねぇ、君さぁ……」

 急に近づいた杉橋の顔に、陽菜美は慌てて身をのけぞらせようとした。

 でもそれよりも早く、陽菜美の腕は蒼生にぐっと引き寄せられる。

「きゃ」

 よろけた陽菜美の身体は、そのまま蒼生の長い腕に抱き止められた。


「あ、蒼生さん!?」

 陽菜美はドキッとして顔を上げるが、蒼生は陽菜美の肩を抱く手に力を込めると、杉橋をキッと睨みつけている。

「おい洸平。それ以上、陽菜美にちょっかい出すなら、本気で怒るぞ」

 蒼生の鋭い声が室内に響き渡った。

 すると途端に杉橋が、くすくすと肩を揺らして笑い出す。


「ごめんごめん」

 杉橋はあははと声を上げると、陽菜美と蒼生に向かって手を合わせた。

 陽菜美は訳がわからず、蒼生を見上げるが、蒼生は怪訝そうな顔をしたままだ。

「そう怒るなって! ちょっとカマかけただけだよ。君、陽菜美ちゃんって言うんだね。蒼生にはよほど大切な秘書さんとみえる」
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