キスはボルドーに染めて
「そちらの秘書さんの事に、決まってますでしょう?」

 美智世のひときわ高く鋭い声に、陽菜美は縮み上がりそうになりながら、踏ん張って背筋を伸ばした。

「蒼生さん。あなたはただでさえ、招かれざる客なわけですのよ。お兄様の所を追い出され、仕方なく(わたくし)が拾ってあげたのです。その恩も忘れて、こう勝手なことをされては、社員にも示しがつきませんわ。先日も、視察などと理由をつけて、フランスに行っていたそうですね」

 美智世がヒステリックにまくし立てたところで、脇に控えていた秘書が「社長」とそっとたしなめる。

 美智世は一旦息をつくと、興奮して起き上がらせていた身体を、再び椅子の背に軽く沈めた。


「ところであなた」

 すると美智世が、急に陽菜美に顔を向ける。

「あなた、今までどんなお仕事を?」

 美智世は品定めするかのように、陽菜美の姿を上から下までゆっくりと目で追った。

 その冷たい目線に、陽菜美の背筋がゾッとする。
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