キスはボルドーに染めて
「じゃあ、濃い目でお願いします!」

「了解。たしかフレンチローストの豆があったはず……」

 引き出しを覗き込む蒼生を見ながら、陽菜美はくすりと笑うと部屋を出た。


 秋も深まり夜の街は少し肌寒い。

 陽菜美はコンビニでサンドイッチやデニッシュパンを買うと、駆け足で会社へと戻る。

 エレベーターを出て、OTOWine株式会社の文字が書かれたガラス戸を抜けた時、陽菜美はどこかで見覚えのある後姿に足を止めた。

 緩いカーブのかかったロングの髪に、シフォン生地のスカート。


「え? 沙紀ちゃん?」

 陽菜美は驚いたように声を上げると、振り返って大袈裟に両手を振っている沙紀の元に寄った。

「あぁ、よかったぁ。受付で陽菜美さんを、呼んでもらおうと思ってたんですよぉ」

 相変わらずしたったらずな甘えるような声に、陽菜美は苦笑いを返す。


 ――でも、どうして沙紀ちゃんがここへ……?


 陽菜美は伺うように、目の前でにこにこと笑顔を振りまく沙紀を見つめた。
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