キスはボルドーに染めて
「私、コールセンターで陽菜美さんと一緒に働いていた野上 沙紀(のがみ さき)ですぅ。陽菜美さんから、ここの業務は荷が重いって相談されててぇ。御社の担当オペレーターをしてる私が、音羽さんの力になった方が良いんじゃないかって、説得されてた所なんですぅ……」

 沙紀はありもしない嘘をぺらぺらとまくし立てると、瞳をうるうるとさせながら蒼生を上目遣いで見つめている。


 ――あぁ、今までも、こうやって男を落としてきたのか……。


 貴志も貴志なら、沙紀も沙紀だなと、陽菜美はどこか冷静な気持ちで考える。

 こんな甘えるような目つきで見つめられたら、陽菜美ですらコロッと騙されてしまいそうだ。


 ――蒼生さんだって、男性だもん……。


 どこか諦めに近い気持ちで息をついた陽菜美は、見上げた蒼生の顔に小さく目を開く。

 蒼生はここへやって来た時と全く変わらない様子で「ほお」と低い声を出した。


「うちの担当オペレーターを?」

「はい♡ 配属されてからずっとですぅ」

「ではもう、ベテランだ」

 蒼生の声に沙紀は照れたように肩をすくめる。
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