キスはボルドーに染めて
 今、蒼生と陽菜美の間で企画案の有力候補として上がっているのは、お客様に合ったワインを診断して提案するアプリの開発だ。

 有名ソムリエに監修してもらい、お客様の年齢や好みだけでなく、食事のメニューに合わせた提案もする。

 勧める商品は低価格帯をメインにして、手軽に試してもらうことで、その後の継続に繋げようというものだった。


「へぇ、結構いいんじゃない?」

 杉橋はそう言うと、近くのチェーン店の牛丼を、はふはふと息を吐きながら口いっぱいに頬張った。

「でも……」

 陽菜美は口をつぐむと、そっと蒼生の様子を伺う。

 この案でプレゼン資料を作り始めてはいるものの、まだ蒼生はどこか納得していない様子だということは、ひしひしと伝わっていた。

 そしてそれは陽菜美自身もまったく同じ気持ちなのだ。


 ――何かもっと他の案があるはず……。


 陽菜美が小さく息をついた時、時計を見た杉橋が急に慌てだす。

「やべ、午後から会議なんだよね。今日はもう顔出せないと思うから、がんばってね」
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