キスはボルドーに染めて
　杉橋は残りの牛丼を口いっぱいにかき込むと、バタバタと慌ただしく荷物を手に立ち上がった。

「はい。杉橋さんも頑張って」

　陽菜美は杉橋の背中に向かって声をかけるが、その声が届く前にバタンと扉が閉じる音が響く。


「本当にあいつは騒々しいな」

　すると作業がひと段落したのか、蒼生がサンドイッチとコーヒーカップを手にソファにやって来た。

　蒼生はふうと息をつくと、さっきまで杉橋が座っていた場所に腰かける。

　陽菜美は、プレゼン資料をめくりながらサンドイッチを口に運ぶ蒼生の顔を見つめた。


「やっぱり、納得できませんか？」

　陽菜美の声に、蒼生は「まぁな」と低い声を出す。

「うちの顧客層からすると、診断アプリがどれだけ刺さるか少し疑問なんだ」

　蒼生はそう言うと「ちょっと借りるぞ」と陽菜美のノートパソコンを自分の方へ向けた。

　静かな室内にキーボードを叩く音が響く。

　しばらくして蒼生が指さした画面には、ＯＴＯＷｉｎｅのウェブサイトの分析画面が映っていた。
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