キスはボルドーに染めて
 しばらくしてそっと目線を戻すと、蒼生はもう涼しい顔でサンドイッチを口に運んでいた。


 ――ゴマ、食べちゃったし……。どういうつもりよ。


 陽菜美はさっきまで目の前にあった、やけに艶っぽく見える蒼生の唇をそっと見つめる。

 そしてきゅんと息苦しくなる胸元に手を当てた。


 ――きっともう、そうだったんだ……。


 陽菜美はきゅっと手に力を入れると、小さく自分にうなずいた。


 ――私の中で、蒼生さんへの気持ちが、どうしようもない程に膨らんでしまっているんだ。


 いつもはちゃめちゃだと言いながらも、陽菜美を助け、守ってくれる蒼生。

 蒼生の仕草や言葉に触れる度、もっとこの人に近づきたいと思ってしまう。


 ――私、蒼生さんが好き。


「どうかしたか?」

 蒼生が不思議そうに陽菜美の顔を覗き込む。

「どうもしません!」

 慌てて顔を背けた陽菜美を楽しむように、蒼生はいつもの笑顔であははと声を上げている。


 ――あぁ、本当に好きだな。この笑顔……。


 陽菜美はつられるように肩を揺らしながら、この笑顔をいつまでも見つめていたいと心の中で願った。
< 79 / 230 >

この作品をシェア

pagetop