キスはボルドーに染めて
「えっと……」

 杉橋は何かを考えるかのように目線を上にあげていたが、次の瞬間、酷く動揺したようにオロオロと狼狽(うろた)えだす。

「あ、え!? もう!? そういうこと!?」

 勝手に自分の中で処理する杉橋に、蒼生が「おい」と声を出した。

 でも杉橋の耳に、蒼生の声は届いていない。

 杉橋は背筋をピンと正すと、敬礼するように右手を額に当てる。

「大丈夫、安心して! 次からはちゃんとノックします!」

 何が大丈夫なのだろう。

 どうしようもなく真顔で大きくうなずいた陽菜美と蒼生に、ぐっと親指を立てると、杉橋は今まで見たこともないような勢いで部屋から退散した。


「あいつ、完全に勘違いしてるな」

「ですね」

 身体を起こした陽菜美は、蒼生と顔を見合わせるとぷっと吹き出してしまう。

「まったく本当にここは、はちゃめちゃな奴ばかりだな」

 蒼生はあははと声を上げると、陽菜美の頬をきゅっと指先でつまんだ。

「もう! 蒼生さんの方が、はちゃめちゃなんですってば」

 陽菜美は恥ずかしさを隠すように、ぷいとそっぽを向く。
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