キスはボルドーに染めて
 恋する乙女のように、蒼生の笑顔の余韻に浸りそうになった陽菜美は「だめだめ!」と声を出すと慌てて飛び起きる。

 だからといって仕事をしないわけにはいかない。

 このプレゼンが成功しなければ、蒼生も陽菜美もこの会社を追い出されるかも知れないのだ。

 そして社長の美智世はそれを望んでいる気がする。


 陽菜美はプルプルと大きく頭を振ると、「よし」と腕まくりをしてパソコン画面を開いた。

 画面には蒼生が作った資料が、開かれた状態でそのまま残っている。

 丁寧に作られた資料には、サイトの分析情報だけでなく、OTOWAグループ全体の概要を記したものもあった。

 蒼生は以前、厄介者扱いされる理由を“仕事をしてこなかったから”と言っていたが、それはきっと嘘だろう。

 だってこの資料を一目見れば、蒼生がどれだけ仕事ができる人かなんてすぐにわかることだ。


「すごいなぁ」

 マウスを操作しながら次々にページをめくった陽菜美は、会社の沿革が書いてある部分を見てはたと手を止めた。
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