何か勝手に逆ハーレム

溝渠の恋/出会い

「俺がとってみようか」

 声を掛けたのは気紛れというか、魔が差したという方が正しかった。モールの中にあるゲームセンターのクレーンゲームで四苦八苦していた、高校生にも女子大生にも見える子が振り返る。寒色系のメイクにパンクロック風の服装。服装と同じく気も強そうな顔を歪めて「失せろオッサン」と詰られるのを覚悟していたのだが「わぁ、いいんですか」と期待に輝く目で見上げてきた。クレーンゲームの得意な友人に倣ってやってみると成功。受け取ったぬいぐるみをギュッと抱き締め、嬉しさ一杯といった顔で感謝してきた。

「ゲームお上手なんですね! 私どうも下手で……毎回チャレンジするんですけどなかなか取れなくて……あんまりつぎこんだらとガチャガチャのお金がなくなっちゃうし……」

 美人だの端麗だの言われそうなルックスよりも何も、純朴な笑顔と態度がいいと思った。お礼がしたいと言われたが、ゲーム代は彼女の財布から出ている。いいよいいよと立ち去ろうとすると、彼女は鞄から小さなカードを出した。

「このお店の珈琲とサンドイッチ美味しいんです。夜はバーやってます」
「そうなんだ、今度行ってみようかな」

 電車に乗った後、店の名刺を確認する。住所と店名に既視感を覚え、数日後行ってみたら店長が高校時代の先輩で「いらっしゃいませ、あの時はありがとうございました!」とゲーセンに居た時よりはマイルドな化粧をした女の子がテーブルを拭いていた。

 ……運命の巡り合わせで片付けるワケにはいかない。魅鳥ちゃんはまだ十九で俺はとっくに三十三、高い壁どころか落ちたら取り返しのつかない深い溝があった。
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