スターリーキューピッド
教室の前の廊下で絡まれている明吾を見かけた瞬間。


『毎日毎日……いい加減にしなさいよ!!』


鬼の形相で彼らに近づき、胸ぐらを掴んだ。


それからはいじりはピタリと止んだ。

しかし、言動が問題となり、周りから腫れ物扱いされるように。

そんな中でも、明吾だけは以前と変わらず接してくれていたのだけど……。

『不良みたい』『元ヤンじゃね?』と、同級生たちが陰で話しているのを聞いてしまい……。

迷惑をかけないためにも、明吾とも徐々に距離を置くようになった。


「それ以来、引っ込み思案になってしまって。幸い、同級生のほとんどとは中学で別々になったので、一からやり直そうと思ったんですけど……」


最初の一歩として、委員会に立候補した。

クラス委員を務めると決めたのも、実はそれも理由の一部だったりする。

明吾との関係も戻ってきつつあるけれど……傷はまだ完治してなかったみたい。


話し終えると、ポンポンと背中を擦られた。


「辛かったね。聞いてるこっちも胸が張り裂けそうだったよ」

「引かないんですか……?」

「ないよ。明吾くんを思っての行動だったわけでしょ? ね、一心くん」

「ああ。胸ぐらを掴んだことは良いことではないけど、それだけ彼を守りたかったってことだし」


左隣とバックミラーから、優しい眼差しが注がれる。


「きっとご家族も理解して……愛香、そっちにティッシュあるなら渡してあげて」

「あるよ〜。はいどうぞ」

「っ、すみません……」


ティッシュを1枚もらい、目尻に当てる。

優しさと包容力に、胸がじんわりと温かくなって、本日2回目の安堵の涙を流したのだった。
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