御曹司様はご乱心
第一話 ポルシェの代償
◯名門大学のキャンパス
さくら「ぬぉぉぉぉぉぉ!」
◯さくら、校門から大学構内へと続く桜並木を、必死の形相で自転車を漕いでいる。
自転車はボロいママチャリ。
さくら「ふんがーーーー!」
◯さくら、黒髪、ロングストレートを振り乱して一心不乱に自転車を漕ぐ。
その横を高級車がスィーと追い越していく。
追い越しざまにウィンドウが降りて
ちょっと嫌味な令嬢「あら、望月さん、ごきげんよう」
◯さくらににっこりと微笑みかける。
さくら「ごきげんよう、絵麻さん」
◯さくら、髪が乱れ、額から汗が吹き出てえらいことになっているが、
根性で笑みを返す。
◯車のウィンドウが上げられて、令嬢の乗った高級車が小さくなっていく。
◯視点が大学の駐車場に移る。
大学の駐車場には、高級車がところ狭しと並んでいる。
◯さくらのモノローグ
あたしの通う欄城大学は小学校からの一貫校で、良家の子女が通う超名大学なのである。
さくら「はぁ」
◯さくら、ため息をついて自転車を降りる。
さくらモノローグ
今はママチャリ登校のこんなあたしだけれど、
一応あたしだって小学校からの生粋の欄城っ子なのである。
かつては父の車で送ってもらっていたし、
みんなみたいにきれいな服だって着ていた。
だけど父の事業が傾いて、乗用車は手放し、
今は仕入れのための軽トラが一台残るのみなのである。
そうするとずっと仲の良かった友達とも、だんだん疎遠になってしまって、
なんだかいたたまれない。
そんな状況だから、入学直後なのだけれど、大学を辞めて働こうかとも真剣に考えたりもした。
だけど親がせめて大学だけはちゃんと卒業してくれと、
泣いて反対したので、奨学金を貰い、必死にバイト代を稼いで、
なんとか大学生活を送ることができているのが現状だ。
◯さくら、しょんぼりと自転車を押しながら、小石を蹴っ飛ばす。
そこに反対車線からポルシェが走ってくる。
◯コツンという擬音語
◯青ざめるさくら
◯ポルシェのケイマンが停止し、男が降りてくる。
総一郎「君、どうしてくれるんだい? 僕のポルシェが傷ついてしまったじゃないか」
◯総一郎、薄茶のさら髪が風に靡く、とんでもない美形の男。
さくら(ひぃぃぃぃ! この方は帝王(カイザー)様ではありませんかっ!!!)
◯顔面蒼白になって恐れおののく、さくら。
◯さくらのモノローグ
二つ名に帝王(カイザー)の名を頂くこの人物の本名は鳥羽総一郎といって、
名うて資産家が集う我が大学でも、破格の家柄の御曹司なのである。
なんでも日本でも屈指の大企業である鳥羽建設の跡取りなのだとか。
もっともあたしとは学部も違うし、学年も違うから、
ときどき遠くから姿を見かけることはあったんだけど、
こんなに近くでご尊顔を拝したことはない。
さくら(あたしったら、そんな人の車に傷を……傷を……。
修理代金って一体いくら請求さらるんだろう)
◯さくら、グルグルする。
総一郎「おい、君、大丈夫か? 顔色が優れないようだが」
さくら(もう無理っす。これ以上バイト増やせません)
◯さくら、目を回す。
総一郎「君! おい、君! しっかりしろ」
◯さくら、気分が悪くなってその場にしゃがみ込む。
総一郎「ひどく顔色が悪い、ともかく車の中へ」
◯さくらをポルシェの助手席に座らせる総一郎。
さくら「重ね重ね、すいません。少し休めば大丈夫かと」
◯魂が抜けかけているさくらに、総一郎は小さくため息を吐いて
車を出る。
さくら(ああ、本当に車の修理代、どうしよう。今だってギリギリの生活なのに、
いよいよあたし、大学を辞めて働きゃなきゃならないのかな?)
◯ぐるぐるしているさくらに、総一郎がスポーツドリングを差し出す。
総一郎「ほら、飲めば?」
さくら「えっ?」
◯さくら、固まる。
総一郎「とりあえず、それ飲んで落ち着こうか」
◯さくら、更に固まる。
さくら(怖い、怖すぎる! 一体いくら請求されるんだろう?)
◯さくら、震え慄く。
総一郎「あのさあ、君、失礼じゃない?
人のことをそんな猛獣を見るような目つきで」
さくら(ぶっちゃけ、猛獣より怖いんですけど)
◯さくら、覚悟を決めてスポドリを飲み干す。
総一郎「車の傷の件は、不問にしてあげてもいいよ」
さくら「えっ?」
◯うっかり顔を上げたさくらと総一郎の視線が合う。
◯さくらのモノローグ
あれ? この人こんなに優しい目をしてるんだ。
透き通るビー玉のような瞳……すごく綺麗。
◯総一郎に見惚れて、少し呆けるさくら。
総一郎「ただし条件がある」
◯総一郎の言葉に再び青ざめるさくら。
さくら(ほうら、おいでなすった。やっぱり前言撤回!)
総一郎「僕の恋人役を演じてくれないか?」
さくら「へっ?」
◯さくら、ぽかんとする。
さくら「ぬぉぉぉぉぉぉ!」
◯さくら、校門から大学構内へと続く桜並木を、必死の形相で自転車を漕いでいる。
自転車はボロいママチャリ。
さくら「ふんがーーーー!」
◯さくら、黒髪、ロングストレートを振り乱して一心不乱に自転車を漕ぐ。
その横を高級車がスィーと追い越していく。
追い越しざまにウィンドウが降りて
ちょっと嫌味な令嬢「あら、望月さん、ごきげんよう」
◯さくらににっこりと微笑みかける。
さくら「ごきげんよう、絵麻さん」
◯さくら、髪が乱れ、額から汗が吹き出てえらいことになっているが、
根性で笑みを返す。
◯車のウィンドウが上げられて、令嬢の乗った高級車が小さくなっていく。
◯視点が大学の駐車場に移る。
大学の駐車場には、高級車がところ狭しと並んでいる。
◯さくらのモノローグ
あたしの通う欄城大学は小学校からの一貫校で、良家の子女が通う超名大学なのである。
さくら「はぁ」
◯さくら、ため息をついて自転車を降りる。
さくらモノローグ
今はママチャリ登校のこんなあたしだけれど、
一応あたしだって小学校からの生粋の欄城っ子なのである。
かつては父の車で送ってもらっていたし、
みんなみたいにきれいな服だって着ていた。
だけど父の事業が傾いて、乗用車は手放し、
今は仕入れのための軽トラが一台残るのみなのである。
そうするとずっと仲の良かった友達とも、だんだん疎遠になってしまって、
なんだかいたたまれない。
そんな状況だから、入学直後なのだけれど、大学を辞めて働こうかとも真剣に考えたりもした。
だけど親がせめて大学だけはちゃんと卒業してくれと、
泣いて反対したので、奨学金を貰い、必死にバイト代を稼いで、
なんとか大学生活を送ることができているのが現状だ。
◯さくら、しょんぼりと自転車を押しながら、小石を蹴っ飛ばす。
そこに反対車線からポルシェが走ってくる。
◯コツンという擬音語
◯青ざめるさくら
◯ポルシェのケイマンが停止し、男が降りてくる。
総一郎「君、どうしてくれるんだい? 僕のポルシェが傷ついてしまったじゃないか」
◯総一郎、薄茶のさら髪が風に靡く、とんでもない美形の男。
さくら(ひぃぃぃぃ! この方は帝王(カイザー)様ではありませんかっ!!!)
◯顔面蒼白になって恐れおののく、さくら。
◯さくらのモノローグ
二つ名に帝王(カイザー)の名を頂くこの人物の本名は鳥羽総一郎といって、
名うて資産家が集う我が大学でも、破格の家柄の御曹司なのである。
なんでも日本でも屈指の大企業である鳥羽建設の跡取りなのだとか。
もっともあたしとは学部も違うし、学年も違うから、
ときどき遠くから姿を見かけることはあったんだけど、
こんなに近くでご尊顔を拝したことはない。
さくら(あたしったら、そんな人の車に傷を……傷を……。
修理代金って一体いくら請求さらるんだろう)
◯さくら、グルグルする。
総一郎「おい、君、大丈夫か? 顔色が優れないようだが」
さくら(もう無理っす。これ以上バイト増やせません)
◯さくら、目を回す。
総一郎「君! おい、君! しっかりしろ」
◯さくら、気分が悪くなってその場にしゃがみ込む。
総一郎「ひどく顔色が悪い、ともかく車の中へ」
◯さくらをポルシェの助手席に座らせる総一郎。
さくら「重ね重ね、すいません。少し休めば大丈夫かと」
◯魂が抜けかけているさくらに、総一郎は小さくため息を吐いて
車を出る。
さくら(ああ、本当に車の修理代、どうしよう。今だってギリギリの生活なのに、
いよいよあたし、大学を辞めて働きゃなきゃならないのかな?)
◯ぐるぐるしているさくらに、総一郎がスポーツドリングを差し出す。
総一郎「ほら、飲めば?」
さくら「えっ?」
◯さくら、固まる。
総一郎「とりあえず、それ飲んで落ち着こうか」
◯さくら、更に固まる。
さくら(怖い、怖すぎる! 一体いくら請求されるんだろう?)
◯さくら、震え慄く。
総一郎「あのさあ、君、失礼じゃない?
人のことをそんな猛獣を見るような目つきで」
さくら(ぶっちゃけ、猛獣より怖いんですけど)
◯さくら、覚悟を決めてスポドリを飲み干す。
総一郎「車の傷の件は、不問にしてあげてもいいよ」
さくら「えっ?」
◯うっかり顔を上げたさくらと総一郎の視線が合う。
◯さくらのモノローグ
あれ? この人こんなに優しい目をしてるんだ。
透き通るビー玉のような瞳……すごく綺麗。
◯総一郎に見惚れて、少し呆けるさくら。
総一郎「ただし条件がある」
◯総一郎の言葉に再び青ざめるさくら。
さくら(ほうら、おいでなすった。やっぱり前言撤回!)
総一郎「僕の恋人役を演じてくれないか?」
さくら「へっ?」
◯さくら、ぽかんとする。
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