御曹司様はご乱心

第二話 鳥羽さんの挙動不審が止まらない。

◯さくら、驚愕の表情。

さくら「えっ? ええええええええええ???」

総一郎「いや、だから実際に恋人になれとは言っていないから。
    あくまでフリで構わないんだ」

◯総一郎バツの悪そうな顔をする。

総一郎「実は先日彼女にふられたんだ。
    来月僕は二十歳を迎える。
    その誕生日パーティーにステディな恋人がいないというのは体裁が悪い。
    君にはその役割だけを果たしてもらえればそれでいいんだ」

さくら「はあ、そうですか。そういうことでしたら」

◯ラインを交換するふたり。

◇◇◇場面転換、
翌日、大学の講義室の前に、修羅のごとき形相で佇む総一郎。


総一郎「望月さくら、貴様なぁ〜」

さくら(ひぃぃぃぃ! 地獄の低音ボイス……のみならず、
    二人称が『君』から『貴様』に変わっとるやないかーい!)

◯さくら、身の危険を感じて後ずさる。

さくら「は、はい、何でしょう? 帝王様」

◯さくら、ビビりまくる。

総一郎「あのねぇ、俺の名前は鳥羽総一郎、ちゃんと覚えてくれる?」

さくら(一人称も『僕』から『俺』にかわっとるやないかーい!)

◯さくら、ジリジリと壁際に追いやられてからの、さりげない壁ドン状態。

さくら「ぞ……存じております……けど?」

◯総一郎のマジ顔

総一郎「だったらちゃんと名前で呼んで?」

◯総一郎、少しかすれた声でさくらにささやく。
 吐息が頬に当たるくらい顔が近い。

さくら(超イケメンの顔面が、ちっ……近いんですけど?)
さくら「とっとととと鳥羽さんっ!」

総一郎「できたら下の名前で!」

◯総一郎、軽く瞳孔が開いた感じの迫力のある顔で

さくら「……やっぱりやめておきます。なんかキャラじゃないし。
    鳥羽さんは鳥羽さんでいいでしょ?
    鳥羽さんだってあたしのことフルネームで呼ぶんだし」

◯総一郎、不思議そうな顔をする。

総一郎「ああ、そうか。じゃあ俺も名前で呼ぶことにしよう。
    さっ……く……」

◯総一郎言葉に詰まって、盛大に赤面する。

総一郎「何だこの感覚は……妙にこっ恥ずかしいぞ」

◯総一郎、挙動不審

総一郎「そっ……そんなことはどうでもいい。(←誤魔化そうとしている)
    それよりも望月さくら、
    貴様、昨夜はなぜ俺からのラインに返信しなかったんだ!」

◯総一郎、人差し指でビシッとさくらを指す。

さくら「えっ? ライン?」

◯さくら、カバンの中からスマホを取り出す。

◯スマホの電源が落ちている。

さくら「あっ、御臨終だ」

総一郎「……」

さくら「ごめんなさい。ライン送ってくれてたんですね。
あたし知らなくて、なんかカバンの中でスマホの電源が落ちちゃってたみたいです」

◯さくら、あははと笑って、頭を掻く。

総一郎「はぁ〜良かった。
    んだよ、めちゃくちゃ心配したっつうの」

◯総一郎、さくらの肩口に頭をもたせかけて、ひどく脱力している。

総一郎「お前昨日すごく体調悪そうだったし、
    何かあったんじゃないかって、こっちは生きた心地も……」

◯総一郎、はっと顔を上げ、みるみるうちに、激しく赤面する。

総一郎「べっ……別に、そんなんじゃないんだからな!
    かっ勘違いすんなよ!
    おっ……お前のこと心配したっつうか、これはそのっ、あれだ。
    俺の誕生日の恋人代行の件な、あれが気になってだな。
    っていうか、近い近い近い」

◯総一郎、ビヨンっという擬音語とともに、さくらから飛び退く。

さくらのモノローグ
鳥羽さんの挙動不審が止まらない。

総一郎「おっ……俺は2限の講義があるからっ! これで失礼するっ!」

◯総一郎、さくらにくるりと背をむけて、ロボット歩きで去っていく。

さくらモノローグ
鳥羽さん、右手と右足、左手と左足が一緒に出ているよ?

さくら「あのっ、鳥羽さんっ!」

◯人混みに紛れていく総一郎を呼び止めるさくら。

「心配してくれて
 ありがとうございます」

◯さくら、体ごと折り曲げて、礼をする。

◯振り返った総一郎が、妙な感じで動きを止める。

さくらモノローグ
この人見た目は超イケメンなんだけど、本当に残念なイケメンだよね。
とてもかわいそうだけど。

総一郎「だっ……だだだだだから、それはお前を心配したんじゃなくて、
    おっおおおおおお俺の、だなぁ」

◯思いっきり赤面し、動揺する総一郎。

さくら「それでもっ!」

◯さくら、ちょっと泣きそう。

さくら「あたしは嬉しかったんです」

◯さくら、泣きそうになりながら微笑む。

さくらモノローグ
鼻の奥がツンとして、ちょっとだけ泣きそうになった。

凍えてしまいそうな世界の中で、
その言葉だけで、あたしは充分生きられる。

なぜだかそんなふうに思ってしまった。

総一郎「望月さくらっ!」

◯さくらに何かを言おうとした総一郎を

一回生の女の子「あっれー? 鳥羽先輩じゃないですかぁ」

◯一回生の女の子たちが取り囲む。





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