御曹司様はご乱心

第四話 初LINE

◇◇◇さくらが講義を受ける教室で前の席に陣取り、
後ろを向いて、さくらと話す総一郎◇◇◇

総一郎「あのね、望月さくらさん、
    君は自分の立場ってものをちゃんと理解している?」

◯ファッサーという擬音語とともに、爽やかな空気を身に纏う超絶イケメン総一郎の図。

さくら(出やがったな! 妖怪ウザガラミ)

◯さくら、白目をむく。

総一郎「君の心無い行動が、
    どれだけ僕を傷つけているのかわかっているのかい?」

◯総一郎の瞳が切なげに揺れる。

◯三文芝居だとわかっていても、ちょっともっていかれそうになるさくら。

さくら(はっ、いかん、いかん。正気を取り戻せ、さくら)

◯さくら、軽く頭をふる。

総一郎「僕は別に構わないんだよ? 寛大な心の持ち主だし?
    君の失礼極まりない行動に対しても、あくまで大人の対応をするつもりだよ?
    だけど、僕のポルシェが……ポルシェがぁ……」

◯総一郎、言葉を切ってさくらをチラ見。

『チラッ』


さくら「既読スルーの件は、大変申し訳ありませんでした」

◯さくら、少し引きつり、
ちょっと涙目になりながら三つ指をついて総一郎に詫びる。

◯さくらの回想

しかし、である。
バイトのど修羅場中に『月がきれいだ』なんて送ってこられても
どない返せっちゅうんじゃい!

『月見バーガーでも食べとけや!』

とでも送っとけばよかったんだろうか。

◯さくら、思案に暮れる。

総一郎「お前がさ、バイトで忙しいのは知ってる。
    けど、だからこそこっちはすんげー心配してんだろ?
    女の子なのに夜道平気なんだろうか、とか……さ」

◯総一郎下を向く。
◯薄茶のさら髪が表情を隠す。

総一郎「……」

◯総一郎、耳や項のあたりがめっちゃ赤面。
◯総一郎、くわっと顔を上げる。

総一郎「ああ、もう何だってお前の周りはこうも空気が薄いんだっ!
    環境問題の早期改善が臨まれるなぁっ!!!」

◯さくらモノローグ

謎のキレ方である。

総一郎「とにかく、これは業務命令だ。
    バイト終わりには必ず俺にライン寄越せ、いいな」

◯総一郎、さくらから顔をそむけて、少し怒ったように言う。

さくら「わ……わかりました」

◯さくら、しぶしぶ頷く。

◯総一郎、無言で席を立って講義室を出ていく。
 そして開け放たれたドアの向こうで

総一郎「よっしゃー!」

 と叫んでいる。

◯さくらモノローグ

鳥羽さんて、つくづくよくわかんない人だ。

◇◇◇場面転換、視点総一郎に移る。場所は大学の廊下◇◇◇

相良煉「よう、総一郎!嫌にごきげんだな」

◯総一郎モノローグ

こいつの名前は相良煉(さがられん)、俺の親友だ。

相良商事の跡取り息子で、うちの両親と仲が良かったこともあって、
物心付く前からお互いの家を行き来してって間柄だ。

総一郎「わかる? ねぇ、わかる? 
    やっぱ分かっちゃうかな。この俺の幸せ全開オーラが」

ああ、いかん。
どうしても顔がにやけてしまう。

◯総一郎顔を押さえる。

総一郎「恋をしなさい! 君たちも」

◯総一郎、相良煉の背中をバシバシと叩く。

相良煉「痛ってぇな! このバカ!!」

◯力任せに叩かれて、相良煉が少し涙目になっている。

相良煉「恋ってお前が? えっ?」

◯相良煉、驚いて目を丸くする。

総一郎「えっ? 何?」

◯総一郎も相良煉の反応に驚く。

相良煉「いや、なんか意外だなって思って。
お前が女に告白されるのなんてしょっちゅうだったし、
そのうちの何人かと付き合ったのも知ってたけど、
お前、いっつも険しい顔して、長続きなんてした試しがねぇっつうか。
恋愛ごとでお前がそんな幸せそうな顔してるのをみたのは初めて……っつうか」

◯相良煉、摩訶不思議なものを見るような眼差しを、総一郎に向ける。

◯総一郎、モノローグ

確かにこれは俺にとって初めての経験だった。

ゆえにどう動いていいのか、よくわからない。

彼女のことを考えるとそれだけで、頭がふわふわして幸せで、
だけど彼女の一挙手一投足で奈落に突き落とされたりもする。

本当に俺は一体どうすればいいのだろう。

同じサークルの女のこ「きゃー、総一郎くんに煉くんじゃん」

総一郎(何が『きゃー』だよ。俺は猛獣かっての。
    つぅか俺はお前に名前で呼ばれる筋合いはない。
    あっちに行け!)

◯総一郎、眉間にシワを寄せて、不機嫌モード全開。

同じサークルの女の子「ねぇ、今日ヒマ? この後クラブ行こうよ」

◯同じサークルの女の子、相良煉の腕に手を添える。

総一郎(ふんっ! 計算され尽くしたモテ女テクニックだな。 
    俺はそういうのがあまり得意ではない)

総一郎(もっとも、女性恐怖症で触られたら蕁麻疹が出て、
    ゲロをはくんだけどもねっ!)

◯総一郎、ヤケクソ少女漫画風、で涙が光る。

◯総一郎、モノローグ

それでも今まで俺のことを好きだと言ってくれた女はたくさんいた。

だけどその人たちはみんな俺の家柄だとか、ルックスとか、
そんな薄っぺらい外見だけを見て、それを好きだと言ったのだ。

誰も本当の俺の姿を知っちゃいない。

きっとそんなのはどうでもいいんだろう。

家が金持ちで、外見が良ければそれでいいんだ。


相良煉「おっ! いいねぇ。行こう行こう」

煉は軽いなぁ。
煉はそれでいいのかな。

相良煉「もちろん総一郎も行くよな?」

◯相良煉、ガシっと総一郎の肩に手を回して連行する。

◇◇◇場面転換、クラブ内で爆音と光の洪水の中で盛り上がる人々を、
   二階のボックス席から、総一郎がぼんやりと見ている。

相良煉「心ここにあらず……って顔だな」

◯相良煉、総一郎を見ながら意味ありげな笑みを浮かべる。

◯総一郎は手元のスマホを気にしている。

◯総一郎モノローグ

スマホのデジタル時計が22時を示すと、
俺の精神状態はマイナススパイラルに飲み込まれていく。

やっぱり今夜もまた、あいつはラインくれないかもなぁ。

総一郎「はぁ〜」

ラインを交換したはいいもんの、
一度目はカバンの中でスマホの電源が落ちたって言ってた。

そして二度目は既読無視。

総一郎(地味にへこむよなぁ)

◯総一郎、スマホを握りしめて下を向きかけた瞬間にラインの通知音が響く。

総一郎「うぉっ! びっくりしたぁ」

◯総一郎、心臓を押さえる。

総一郎「なっななななななあ、煉、どっ……どうしよう?」

◯総一郎、挙動不審。

相良煉「はあ?」

◯総一郎、スマホでメッセージを表示させる。

◯スマホ、ラインの画面『22:05 生きてます。以上』望月さくら

◯総一郎モノローグ

これが、俺が生まれて初めて恋をした女の子から貰ったラインだった。

相良煉「なんだこりゃ、生存確認かよ」

◯総一郎のスマホを覗き込んだ相良煉が、ちょっと引きつっている。

◯総一郎「あのバカっ!」

◯総一郎モノローグ

それでも俺はその言葉とは裏腹に、
顔がにやけてしまうのをおさえられなかった。

◯総一郎、恋する男の子の色っぽい顔をお願いします。












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