御曹司様はご乱心
第三話 鳥羽総一郎の秘密
◯女の子に囲まれる総一郎を、遠目に見ているさくら。
◯さくらのモノローグ
鳥羽さんはモテる。
まあ、とうぜんだよね。
日本屈指の大企業の御曹司で、成績優秀、それに加えてあの容姿だもの。
◯一回生の女の子と上級生の女の子たちが、総一郎を取り合って火花を散らしている。
さくら(あんたらそれすでに、良家の令嬢の顔じゃなくて、
ヤクザのシマ争いの表情だよ)
さくら(ひぃぃぃぃ! 女の人、コワイ)
◯さくら、抜き足指し足でその場を去る。
◇◇◇視点が総一郎に変わる◇◇◇
総一郎「ちょっと……君たち……やめないか」
◯総一郎、込み上げる吐き気をこらえて、
なんとか女の子たちの前に立ちはだかって喧嘩を止めようとする。
総一郎(きっ……気持ち悪い)
◯総一郎、吐き気をこらえて顔面蒼白。
◯総一郎モノローグ
実はこの俺、鳥羽総一郎は女性恐怖症を発症しているのである。
無理もない。
この美貌である。(自分で言うのもなんですが)
物心ついた頃から、数多の女性たちに追いかけ回される日々を送り続け、
数しれない修羅場に遭遇した結果、すっかりトラウマになってしまったのだ。
心の傷は深く、俺は女性に触れることができない。
どんな老女であっても、女性に触れると蕁麻疹が出て、
接触したまま三分が過ぎると、ゲロを吐く特異体質になってしまったのである。
とはいえ、俺は男が好きなわけではなく、
やっぱり身体は女に反応してしまうわけで……。
ああ、まさに生き地獄である。
しかも俺は日本屈指の大企業の跡取りであり、
二十歳の誕生日には、一族そして会社の役員たちの前に
将来のパートナーとなる女性を伴わなければならない。
俺のことを好きだと言ってくれる女性は掃いて捨てるほどいるのだが、
よもや俺がこんなややこしい体質なのだと知る由はなく、
つい先日も
◯総一郎の回想
元カノ「ねぇ、総一郎、あたしのこと好き?」
◯元カノ、真剣な眼差しで総一郎に迫る。
総一郎「あっ? ああ、もちろんじゃないかっ!
好き好き大好きチャイコフスキー♡」
と答えたら強烈な平手打ちを食らった。
しかし悲しいかな、平手打ちの痛みより、
体中に広がった蕁麻疹のほうが酷かったんだ。
元カノ「嘘ばっかり! 総一郎はあたしと付き合っているっていうくせに、
手も繋いでくれなければ、キスだってしてくれないじゃない」
◯総一郎、元カノの言葉に衝撃を受ける。
総一郎(ハードル高っけぇわ! せめて交換日記からにしてください)
◯回想の中で交換日記を胸に抱きしめながら、乙女チックにはらはらと涙を流す総一郎。
◇◇◇現実にもどる◇◇◇
一回生の女の子「ちょっと、鳥羽先輩、聞いてるんですかぁ?」
◯一回生の女の子、総一郎の手を掴む。
総一郎(うぉぉぉぉぉ! いきなりのゼロ距離核弾頭の投下かよ)
◯総一郎、吐き気をこらえて、すごい形相。
◯総一郎、モノローグ
カラータイマーが鳴っている。
俺の本能のカラータイマーが、
俺の死亡時刻を明確に告げているぅぅぅ。
一回生の女の子「あれ? なんか鳥羽先輩、顔色悪くないですか?」
◯一回生の女の子、総一郎を気遣うふりをして、
総一郎の腕に胸を押し付ける。
◯総一郎モノローグ
俺はその胸の弾力に、自分の死期を悟った。
◯総一郎、灰になる。
「ぼっ……僕は、ちょっとお手洗いに……。じゃあ、失礼するよ」
◯総一郎、脱兎のごとくその場所から逃げ出して男子トイレに駆け込む。
◇◇◇場面転換、男子トイレの洗面所の鏡の前◇◇◇
総一郎「ふぅ、間一髪間に合った」
◯総一郎洗面所で口をゆすぎながら、安堵のため息をつく。
◯洗面台の鏡を見つめる総一郎。
総一郎「どんなにうちが資産家でも、俺がどんなにイケメンでも、
どんなに俺が努力しても、この体質だけはどうにもならなかったんだ」
◯総一郎下を向く。
◯総一郎モノローグ。
俺は、呪われた体質なのだと、
半ば誰かと心を通わせることを諦めて生きてきたように思う。
それはとても味気のないものだった。
世界は色を失って、ひどく虚しかったんだ。
だけど俺は、彼女に出会ってしまった。
◯総一郎、回想。
うちの大学ではめずらしい、チャリ通の彼女に。
◯自転車を押してしょんぼりと歩くさくら。
◯総一郎モノローグ
ところどころ塗装が剥げて、
年季を感じさせるメタリックシルバーのママチャリは
多分お母さんのお下がりだろう。
そんな自転車を押しながら、幸薄そうに、背中を丸めて歩く彼女が小石を蹴った。
その小石が見事に俺のポルシェにジャストミート。
最初はムカついた。
だが、ポルシェの修理代金に目を回して、気分が悪くなった彼女を介抱しているときに、
俺はある異変に気がついてしまったんだ。
◯自分の手をじっと見つめる総一郎
最初は偶然肌が触れてしまったとき、俺は条件反射で
「ひっ!」
と悲鳴を漏らしかけた。
しかし待てど暮らせど、蕁麻疹がでなかったんだ。
総一郎「彼女は俺が触れることができる唯一の女性かもしれない」
そんな淡い期待を持ってしまって、
だけど同時に何かの間違いだったのではないかって、
すごく不安になった。
ラインを送っても返信がなくて、
体調が悪かった彼女のことが心配になって、
その一方で、
彼女に嫌われたんじゃないだろうか、とか
延々とマイナスループにドハマリしてしまったり、
総一郎「ああもう、俺、まじイケてねぇしっ!」
◯洗面台の前で盛大にため息をつく総一郎。
◯総一郎、回想。
そのくせ彼女に
『あたしはうれしかったんです』
そう言って微笑まれては、天にも昇る心地になってしまったり。
総一郎(本当に俺、どうしちまったんだろう)
◯総一郎、恋する男子の顔、色っぽくお願いします。
◯総一郎モノローグ
俺は激しすぎるこの感情のジェットコースターを、ひどく持て余している。
◯さくらのモノローグ
鳥羽さんはモテる。
まあ、とうぜんだよね。
日本屈指の大企業の御曹司で、成績優秀、それに加えてあの容姿だもの。
◯一回生の女の子と上級生の女の子たちが、総一郎を取り合って火花を散らしている。
さくら(あんたらそれすでに、良家の令嬢の顔じゃなくて、
ヤクザのシマ争いの表情だよ)
さくら(ひぃぃぃぃ! 女の人、コワイ)
◯さくら、抜き足指し足でその場を去る。
◇◇◇視点が総一郎に変わる◇◇◇
総一郎「ちょっと……君たち……やめないか」
◯総一郎、込み上げる吐き気をこらえて、
なんとか女の子たちの前に立ちはだかって喧嘩を止めようとする。
総一郎(きっ……気持ち悪い)
◯総一郎、吐き気をこらえて顔面蒼白。
◯総一郎モノローグ
実はこの俺、鳥羽総一郎は女性恐怖症を発症しているのである。
無理もない。
この美貌である。(自分で言うのもなんですが)
物心ついた頃から、数多の女性たちに追いかけ回される日々を送り続け、
数しれない修羅場に遭遇した結果、すっかりトラウマになってしまったのだ。
心の傷は深く、俺は女性に触れることができない。
どんな老女であっても、女性に触れると蕁麻疹が出て、
接触したまま三分が過ぎると、ゲロを吐く特異体質になってしまったのである。
とはいえ、俺は男が好きなわけではなく、
やっぱり身体は女に反応してしまうわけで……。
ああ、まさに生き地獄である。
しかも俺は日本屈指の大企業の跡取りであり、
二十歳の誕生日には、一族そして会社の役員たちの前に
将来のパートナーとなる女性を伴わなければならない。
俺のことを好きだと言ってくれる女性は掃いて捨てるほどいるのだが、
よもや俺がこんなややこしい体質なのだと知る由はなく、
つい先日も
◯総一郎の回想
元カノ「ねぇ、総一郎、あたしのこと好き?」
◯元カノ、真剣な眼差しで総一郎に迫る。
総一郎「あっ? ああ、もちろんじゃないかっ!
好き好き大好きチャイコフスキー♡」
と答えたら強烈な平手打ちを食らった。
しかし悲しいかな、平手打ちの痛みより、
体中に広がった蕁麻疹のほうが酷かったんだ。
元カノ「嘘ばっかり! 総一郎はあたしと付き合っているっていうくせに、
手も繋いでくれなければ、キスだってしてくれないじゃない」
◯総一郎、元カノの言葉に衝撃を受ける。
総一郎(ハードル高っけぇわ! せめて交換日記からにしてください)
◯回想の中で交換日記を胸に抱きしめながら、乙女チックにはらはらと涙を流す総一郎。
◇◇◇現実にもどる◇◇◇
一回生の女の子「ちょっと、鳥羽先輩、聞いてるんですかぁ?」
◯一回生の女の子、総一郎の手を掴む。
総一郎(うぉぉぉぉぉ! いきなりのゼロ距離核弾頭の投下かよ)
◯総一郎、吐き気をこらえて、すごい形相。
◯総一郎、モノローグ
カラータイマーが鳴っている。
俺の本能のカラータイマーが、
俺の死亡時刻を明確に告げているぅぅぅ。
一回生の女の子「あれ? なんか鳥羽先輩、顔色悪くないですか?」
◯一回生の女の子、総一郎を気遣うふりをして、
総一郎の腕に胸を押し付ける。
◯総一郎モノローグ
俺はその胸の弾力に、自分の死期を悟った。
◯総一郎、灰になる。
「ぼっ……僕は、ちょっとお手洗いに……。じゃあ、失礼するよ」
◯総一郎、脱兎のごとくその場所から逃げ出して男子トイレに駆け込む。
◇◇◇場面転換、男子トイレの洗面所の鏡の前◇◇◇
総一郎「ふぅ、間一髪間に合った」
◯総一郎洗面所で口をゆすぎながら、安堵のため息をつく。
◯洗面台の鏡を見つめる総一郎。
総一郎「どんなにうちが資産家でも、俺がどんなにイケメンでも、
どんなに俺が努力しても、この体質だけはどうにもならなかったんだ」
◯総一郎下を向く。
◯総一郎モノローグ。
俺は、呪われた体質なのだと、
半ば誰かと心を通わせることを諦めて生きてきたように思う。
それはとても味気のないものだった。
世界は色を失って、ひどく虚しかったんだ。
だけど俺は、彼女に出会ってしまった。
◯総一郎、回想。
うちの大学ではめずらしい、チャリ通の彼女に。
◯自転車を押してしょんぼりと歩くさくら。
◯総一郎モノローグ
ところどころ塗装が剥げて、
年季を感じさせるメタリックシルバーのママチャリは
多分お母さんのお下がりだろう。
そんな自転車を押しながら、幸薄そうに、背中を丸めて歩く彼女が小石を蹴った。
その小石が見事に俺のポルシェにジャストミート。
最初はムカついた。
だが、ポルシェの修理代金に目を回して、気分が悪くなった彼女を介抱しているときに、
俺はある異変に気がついてしまったんだ。
◯自分の手をじっと見つめる総一郎
最初は偶然肌が触れてしまったとき、俺は条件反射で
「ひっ!」
と悲鳴を漏らしかけた。
しかし待てど暮らせど、蕁麻疹がでなかったんだ。
総一郎「彼女は俺が触れることができる唯一の女性かもしれない」
そんな淡い期待を持ってしまって、
だけど同時に何かの間違いだったのではないかって、
すごく不安になった。
ラインを送っても返信がなくて、
体調が悪かった彼女のことが心配になって、
その一方で、
彼女に嫌われたんじゃないだろうか、とか
延々とマイナスループにドハマリしてしまったり、
総一郎「ああもう、俺、まじイケてねぇしっ!」
◯洗面台の前で盛大にため息をつく総一郎。
◯総一郎、回想。
そのくせ彼女に
『あたしはうれしかったんです』
そう言って微笑まれては、天にも昇る心地になってしまったり。
総一郎(本当に俺、どうしちまったんだろう)
◯総一郎、恋する男子の顔、色っぽくお願いします。
◯総一郎モノローグ
俺は激しすぎるこの感情のジェットコースターを、ひどく持て余している。