ハッピー・バースデー・トゥ・ミー
 増えてきた周囲の雑音を鬱陶しくは思っていた。けれど、29歳の誕生日に胸がザワつくことはなかった。いよいよ20代も最後の年か、って程度。

「アヤ、あなたにいい人いないの?」

 たまに帰省すれば、母親はすぐこれだ。

 私が中高生だった頃は、私の色恋沙汰なんて歓迎していなかったくせに。勉強の妨げになるだとか何とか、ネチネチ言われたものだった。

 それが今ではどうよ、これ?

「休日にデートに誘ってくれる人の1人や2人ぐらい、いないわけ?」

 いるわけがない。

 そろそろ中堅社員だ。それなりに責任のある仕事も抱えているし、はっきり言って忙しい。平日は単身寮と会社を往復するだけになっている。

 その分、休日は好きなことをしなければ!

 私の趣味は観劇だ。観劇の予定がない日だって、公演スケジュールのチェックに、チケット購入に、と忙しい。

 とにかくおひとり様が楽しいし、今はそれだけで精いっぱい!

 結婚に対して、決してネガティブなわけではない。

 ただ、未婚の友達も多いし、社内には30を過ぎて結婚した先輩だって何人もいる。

 だから、私にもこれから自然な出会いが待っていて、自然な流れで結婚することになるのだろうと、のんびり構えていたのだった。

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