ハッピー・バースデー・トゥ・ミー

◻︎


「くー、課長めー!」

 時計の針は20:55を示していた。

 なんとかギリギリで仕事を終わらせられた。しかし、21時までに終わらせるために集中し過ぎてぐったりだ。

 パソコンの電源を落としながら、周りを確認した。フロアの消灯も必要だろうか?

 ……と思ったら、すぐ斜め後ろに本田さんがいるじゃないの!

「本田さんはまだ残業ですか?」

「うーん、どうしようか悩んでる。特別申請も出してないし。明日30分早出しようかなー。森下は帰るの?」

「帰る……というか、今から駅前のビストロに行きます!」

「えっ、こんな時間からあのビストロに!?」

「はい。だって今日は30の誕生日なんですよ」

「だ、誰の!?」

「私のに決まってるじゃないですか。せめて本田さんだけでも、おめでとうって祝ってくれます?」

「ち、ちょっと待ってろ。2分だけ!」

 なぜ2分待たなければならないのだろう?

 確認したかったけれど、本田さんが猛烈な勢いでキーボードを叩き始めたから黙って待つことにした。少しぐらい時間をロスしたところで問題ない。ラストオーダーには十分間に合う。

「よし、パソコンもシャットダウンした。行くぞ、森下!」

 本田さんは鞄を引ったくって、威勢よく立ち上がった。

「はあ?」

「だからビストロに行くんだろ? たっかいワイン注文してもいいぞ。今日はご馳走してやる」

「えっ、本田さんも行くんですか? でも本田さん、家に帰って時代劇チャンネルを見たいんじゃないんですか?」

 本田さんと2人きりであのビストロに行くの? しかも私の誕生日に?

「おおーい、時代劇は確かに好きだけど、あれは他にやることがないから見るもんなの。他でもない森下の誕生日より優先するもんじゃない」

 なんだ、そこまで時代劇、時代劇しているわけでもないんだ……って、んん? 他でもない私、の誕生日……? なんだか仰々しい言い回し……。

「は、はあ。それ、は光栄……です……?」

「だから、ほら、その何て言うか……」

 本田さんが照れたような顔をした。

「ああ、とにかく出発するぞ! ほら!」

「あっ、は、はい!」

 今夜のワインはとびきり美味しいに違いない。そんな予感がした。


END
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