ハッピー・バースデー・トゥ・ミー
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「くー、課長めー!」
時計の針は20:55を示していた。
なんとかギリギリで仕事を終わらせられた。しかし、21時までに終わらせるために集中し過ぎてぐったりだ。
パソコンの電源を落としながら、周りを確認した。フロアの消灯も必要だろうか?
……と思ったら、すぐ斜め後ろに本田さんがいるじゃないの!
「本田さんはまだ残業ですか?」
「うーん、どうしようか悩んでる。特別申請も出してないし。明日30分早出しようかなー。森下は帰るの?」
「帰る……というか、今から駅前のビストロに行きます!」
「えっ、こんな時間からあのビストロに!?」
「はい。だって今日は30の誕生日なんですよ」
「だ、誰の!?」
「私のに決まってるじゃないですか。せめて本田さんだけでも、おめでとうって祝ってくれます?」
「ち、ちょっと待ってろ。2分だけ!」
なぜ2分待たなければならないのだろう?
確認したかったけれど、本田さんが猛烈な勢いでキーボードを叩き始めたから黙って待つことにした。少しぐらい時間をロスしたところで問題ない。ラストオーダーには十分間に合う。
「よし、パソコンもシャットダウンした。行くぞ、森下!」
本田さんは鞄を引ったくって、威勢よく立ち上がった。
「はあ?」
「だからビストロに行くんだろ? たっかいワイン注文してもいいぞ。今日はご馳走してやる」
「えっ、本田さんも行くんですか? でも本田さん、家に帰って時代劇チャンネルを見たいんじゃないんですか?」
本田さんと2人きりであのビストロに行くの? しかも私の誕生日に?
「おおーい、時代劇は確かに好きだけど、あれは他にやることがないから見るもんなの。他でもない森下の誕生日より優先するもんじゃない」
なんだ、そこまで時代劇、時代劇しているわけでもないんだ……って、んん? 他でもない私、の誕生日……? なんだか仰々しい言い回し……。
「は、はあ。それ、は光栄……です……?」
「だから、ほら、その何て言うか……」
本田さんが照れたような顔をした。
「ああ、とにかく出発するぞ! ほら!」
「あっ、は、はい!」
今夜のワインはとびきり美味しいに違いない。そんな予感がした。
END


