繋いだ手、結んだ指先で。


シワひとつなかった手紙に、くしゃっと力を込めた跡が残る。

宿泊学習のことが書かれているから、これは5年生のときに書いた手紙なのだと思う。

一文字一文字、丁寧に書かれた手紙は、北条くんの心を丸ごと写し取ったように飾り気がなくて、だからこそ切なくてたまらない。


この手紙を書いた北条くんは、どんな気持ちだっただろう。

この手紙を持って登校した北条くんは、そわそわと浮かれていただろうか。

渡したくて、渡せなくて、その後もチャンスを見計らっていた北条くんは、一体どんな気持ちで。


「北条くん」


ソファに座る北条くんは、こちらをちらちらと窺い見ていたようで、ちょうど目が合うと気まずそうに逸らされた。

逸らさないでほしい。

目が合わないのは、寂しい。


もう泣かないと決めて、唇を噛んで北条くんの座るソファに近付く。


あの頃、この手紙を受け取っていたら、わたしたちの今は少しだけ形が違ったかもしれない。

命を期限を気にせずに、未来は明るく広がっていると信じていられたかもしれない。

そんな、もしもの話を北条くんにするつもりはない。

この手紙を書いた頃の北条くんの気持ちを想像して、泣きたいほど切なくなったことは、わたしの胸に秘めておくべきだと思う。

でも、それと他にもうひとつ、奇跡みたいに嬉しいことがあったから。


「わたしの書いた手紙……この手紙の返事みたいだね」


誕生日にわたしがハーバリウムと一緒に渡した手紙。

北条くんが目の前で読んでしまって、恥ずかしくてたまらなかった、あの手紙。


北条くんともっと仲良くなりたい。

北条くんともっと話をしたい。

北条くんのことをもっと知りたい。

たくさんの“もっと”を書いた手紙は、欲張りで、素直で、今思えば告白の文字のようだった。


予期せず、北条くんの手紙の返事のようだと思って、それはまるで奇跡のように、目の前をきらきらとさせる。

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