繋いだ手、結んだ指先で。
北条くんは黙ってわたしの話を聞いていたけれど、そのうちいつものように目を見てくれた。
「僕も……そう思ってた。渡せなかった手紙の返事をもらえたみたいだって。嬉しかったよ、生きてきていちばんってくらい……」
北条くんは途中ではっとして言葉を飲み込んでしまう。
もう、遅いよ。
一番大切な部分は、しっかりとこの耳に届いた。
プレゼントに添えた手紙を読んだときの、北条くんの笑顔をはっきりと覚えている。
いつもの笑顔なのに、いつも以上に嬉しそうだった、あの笑顔。
わたしが、北条くんを好きだって気付いたあのとき。
北条くんも、心から、嬉しいって感じてくれていた。
「もう、泣かないって決めたのに」
「泣いてるね、三瀬さん」
「北条くんのせいだから!」
キッとわたしが睨んでも、北条くんは喉を鳴らして笑うだけ。
くしゃっと歪んでソファに落ちていた手紙を手に取って、北条くんは綺麗に折りたたんだ。
「この手紙、まだ僕が持っていていい?」
「……ほしい」
「いつか、必ず渡すから。まだ待っていて」
もう読み終えた手紙なのに、渡せないという理由がわからなくて、簡単には頷けない。
でも、北条くんはきっと嘘はつかないから、必ず渡すと言われたら、信じるしかない。
「渡してくれるまでに読みたくなったら、どうしたらいい?」
「それは、ここに読みに来たら……いや、まって、それも困るな」
「困るの?」
「この部屋、何もないし、つまらないだろ」
どう困るのかは言わず、誤魔化されたような気がする。
つまらないことはないと言うと、北条くんは渋々、またここに来ることを許してくれた。
気付けば家に来てから1時間ほど経っていて、北条くんと一緒にリビングに行く。
待っていてくれた亜希さんは、わたしと北条くんが一緒にいるのを見て、にっこりと笑う。
「仲直りできた?」
「喧嘩してたわけじゃないけど、もう大丈夫です」
「その割には、結衣ちゃんまた泣いたんじゃない?」
そう言うけれど、亜希さんは心配そうにはしていない。
北条くんの方を見ると、しらっとした顔で一言言う。
「泣かした」
その言葉に、焦る人は誰もいなかった。