ひと夏の星に名前をつけるなら
その日の夜も、森へ向かった。

「もしかしたら、もう会えないかもしれない」という不安が、ずっと胸の奥にあった。

だから、今日こそ聞きたかった。
「また来年も、ここに来る?」って。


彼は、いつもの場所にいた。

草に座って、夜空を見ていた。
私の足音に気づいて、振り向く。

「今日も会えた」

その言葉が、胸に染みた。

しばらく空気の流れを二人で感じる。


「……明後日、帰るの」

突然話し出す私に、彼は動揺もしない。

「うん、なんとなくそんな気がしてた」

「今年の夏、あっという間だったなぁ」

私が言うと、アルは少し目を細めてうなずいた。

「ほんとに。……一瞬だった」

虫の声が響く中、星だけが静かにまたたいている。

彼がゆっくりと空を指差した。

「今日は、月がないから、星がよく見える」

「……ほんとだね」

私は空を仰いだ。

確かに、いつもより星がくっきりと瞬いている。

でも、そこにあるはずの月の不在がどこか物足りなくて、寂しかった。

「……なんか、ちょっと変な感じ」

「うん。何もないのに何かが強く見える夜って、あるよね」

彼の言葉に、私はふと自分の胸の中を覗いた。

月がないから、星が見える。
光がないからこそ、闇が際立つ。
そして、終わりが近いからこそ────

今日が新月だったことに、どうしても意味を疑ってしまう。

見えないからこそ大切なものが見える夜、私たちは並んで座った。

いつもと変わらず肩がぶつかりそうなこの距離が、今日はなぜか胸が苦しかった。
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