ひと夏の星に名前をつけるなら
「へぇ、天の川を不気味って言う人は初めて会った。面白いな」

興味深いというように声を弾ませる彼。

てっきり、なんだこいつ、と引かれると思ったから意外な反応に驚いてしまう。

少し、ほんの少しだけ、彼がどんな人か気になって横を見る。

___バチッ

星明りの中で彼と目が合った。

ここで初めて彼の姿を見たことに気がついた。

透明で消えてしまいそうだと思った。

それでも息をすることを忘れてしまうくらいに彼の瞳に吸い込まれた。

すると突然彼は腕を大きくあげて“夏の大三角”わし座のアルタイルを指さす。

「僕はアル。アルタイルのアルだよ。君は?」

さらっと自己紹介をされて、目が揺らいでしまう。
冗談なのか本気なのか分からない。
しかし、どこか悪くない響きだった。

「じゃあ、私はデネブ」

私も倣って指を指す。アルタイルと同じ“夏の大三角”のひとつであるはくちょう座。

「あれ、そこはベガじゃないの?」

彼は不思議そうな顔をして私を見る。

「なんで?」

「だって天の川と夏の大三角なんていったら、織姫と彦星じゃない?」

なんだ、そういう事か。

彼が彦星のアルタイルを名乗ったから、私は織姫の星であること座のベガを名乗ると思ったらしい。

「私、織姫と彦星の話よりギリシャ神話の方が好き」

「へえ、ギリシャ神話か。そっちはよく知らないな」
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