私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
「……はい。そうですね」

達貴さんは優しい。
まるでお兄さんのように。
私の周りには気遣ってくれる人がいる。
梶井さんはどうしているんだろう。
めそめそしている私と違って、梶井さんは今頃平気な顔でチェロを弾いているのかな。
それとも、少しは寂しいって思ってくれてる?
ふっと外に目を向けた。
梶井さんがいるわけないのに―――誰もいないテラス席。
窓から差し込む光はもう夏の気配がした。
明るすぎる光は眩しくて達貴さんと関家君の顔がよく見えなかった。
五月がもう終わりに近づいていることを濃い緑が私に教えていた。
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