私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
渡瀬はそこまで言うと、自分のプライベートに俺を踏み込ませるつもりはないのか、ブツッと電話を切った。
あいつはあいつで色々あるのだろう。
一緒に生きていきたい相手か。
俺は母を亡くし、深い傷を負った。
母が好きだと言ってくれたから、チェロを続けていた。
その母が死に弾く意味がなくなったと思って、チェロをやめようとしていたのは高校生の頃のことだ。
あの日から人を好きになることを避けてきた。
また失って弾けなくなるくらいなら、と。
ただ一人をのぞいては。
「俺はまだ引きずってんのか」
渡瀬が言うように傷は消えない。
この傷は一生モノだ。
ファリャの楽譜を手にした。
火祭りの夜。
俺が一緒に弾こうと思っていた曲だ。
望未と――――
「捨てられなかったな」
楽譜を手にしてアパートメントを出た。
日本へと向かうために。
あいつはあいつで色々あるのだろう。
一緒に生きていきたい相手か。
俺は母を亡くし、深い傷を負った。
母が好きだと言ってくれたから、チェロを続けていた。
その母が死に弾く意味がなくなったと思って、チェロをやめようとしていたのは高校生の頃のことだ。
あの日から人を好きになることを避けてきた。
また失って弾けなくなるくらいなら、と。
ただ一人をのぞいては。
「俺はまだ引きずってんのか」
渡瀬が言うように傷は消えない。
この傷は一生モノだ。
ファリャの楽譜を手にした。
火祭りの夜。
俺が一緒に弾こうと思っていた曲だ。
望未と――――
「捨てられなかったな」
楽譜を手にしてアパートメントを出た。
日本へと向かうために。