私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
とはいえ、次に電話したら言われそうで、連絡先を知っていても電話できずにいた。
フラれ確定女。
それが私。

「うわ、カビが増殖してる」

「困るわねぇ」

穂風さんが除湿器をだそうか?などと真剣に小百里さんと相談を始めた時―――

「こんにちはっ!」

明るい声で店に入ってきたのは関家(せきや)君だった。
みんなからはあからさまに『よかった、これで鬱々ピアノから解放される』なんて空気を感じた。
少しは付き合ってくれたっていいと思う。
……六月に入ってから、ずっとこの調子だけど。

「今日はレッスンの日じゃないのにどうしたの?」

『えー!レッスンじゃなかったー!』とお客さん達が私を見ていた。
甘いよ。
私が立ち直るまでは弾く。
この鬱々ピアノをね。

「パフェ食べにきたんです。あと、望未先生の顔が見たくて」

「関家君……」

なんて優しい子だろう。
じーんと感激してしまった。
私が落ち込んでいると思って、心配して顔を見にきてくれたに違いない。

「ありがと。いい生徒を持って私は嬉しいよ」

「い、いえっ!えーと。今日って何時に仕事が終わりますか?」
< 111 / 174 >

この作品をシェア

pagetop