私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】

July 第28話 最期まで

暗い部屋の中で一人ぼっちでテレビを観ていた。
カフェの仕事が終わり、帰ってきてお風呂に入ったけど、誰も帰ってこない。
今日は菜湖(なこ)ちゃんは達貴(たつき)さんとデートだし、お父さんとお母さんは仕事だって言っていた。
ソファーでごろごろと転がった。

理滉(みちひろ)はね、傷は癒してくれるけど、最後まで絶対愛してくれない。自分じゃなくていいかと思った瞬間、突然、手を離すの』

その言葉がずっと頭に残っていて、テレビの内容は何一つ入ってこなかった。
電話が鳴っているのにその音が遠くに聴こえる。
今日、梶井(かじい)さんと話したら、泣いてしまうかもしれない。
じっと画面を見つめていたけど、結局ボタンを押した。
無視するなんてこと私にはできない。
少しの時間でもいいから、声が聴きたいし、顔が見たい。
画面の向こう側の梶井さんは髪をあげ、綺麗に身だしなみを整えているところで忙しそうだった。
忙しくても毎日、梶井さんは約束通り連絡をくれる。
ドイツとは時差があるから、向こうはまだ明るい。
その服装から、コンサートのリハをしている合間だとすぐにわかった。
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