私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
燕尾服姿の梶井さんはまだタイはつけてなくて、シャツのボタンをはずしたままだったけど、色っぽくて、むしろそのままでもいいんじゃないかなって思っていた。

望未(みみ)?なんだ、その顔』

「いつもどおりの顔だよ……」

『どこがだよ。泣きそうな顔してるくせになにがいつも通りだ。なかなか出ないから、おかしいと思った』

「い、いつもそんな早く出ないよ!」

『出てる』

確かにそろそろ電話がくるかなって思ったら、待機して待つことはあるけどっ……
言われたら、そうかもしれない。

「簡単な女だって思ってるでしょ!」

『なにが簡単な女だ。そんな台詞は百年早い』

「百年も!?」

『お前ほどめんどくさい女はいない。だから、言えよ』

「いっ、言いたくない」

クッションに顔を埋めた。
言ったら、また子ども扱いされてしまう。

『思ってること全部話せよ』

低い声とこっちを見る目。
画面越しなのにとんでもない色気で、やっぱり梶井さんは悪い男だと思った。
こっちを誘惑して、私の言葉を吐き出させるつもりだ。

『望未。俺達は恋人同士で付き合っているんだろ?不安なことがあるなら、ちゃんと話せよ』
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