私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
「下手くそなのに……」

ピアノを弾かないとやっぱりウサギちゃんだな。
顔を赤くしてうつむいている。
日本人形のような黒髪に小柄な体と白い肌。
高校生ではないと本人は言っていたが、俺にすれば、高校生くらいにしか見えない。

「いいから弾けよ」

俺のタイプではないが、小動物的な可愛さがあるからか、ついからかってしまう。
不服そうな顔でウサギちゃんはまたピアノを弾いた。
さっきよりテンポは乱れ、音も散乱している。

「おい。真面目にやれよ」

「無理」

「なにが無理だ」

近寄って、手を伸ばすと俺の手をぱちんと叩いた。
そして、ハッとした顔をする。

「ご、ごめんなさい」

「いや。いい」

小動物に拒否されると傷つくな。
まあ、いいかと思いながら言った。

「俺のスマホをもらえるか」

「あ、はい」

黒のリュックから俺のスマホを取り出して渡す。

「昨日はすみませんでした」

「いや、いい。スマホがなくてちょうどよかった。これがあると、うるさいからな」

「女の人からの電話ですか?」

「まあな」

どうせマネージャーの渡瀬(わたせ)だろう。
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