私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
「私が水をかける前にジュースをかけてくれて、ありがとう」

梶井さんと向かい合わせで座っていた女の人は胸元が見えそうな黒のカットソー、タイトスカートに高いヒール、血のように赤い口紅が似合うセクシー美女だった。
口元にほくろがあり、それがまた色っぽい。

「理滉。私はもう大勢の中の一人は嫌なの。他の女と別れる気はないの?」

「これでも減った方だけどね」

悪びれもせずに梶井さんはそんなことを言った。
女の人は怒るんじゃないかと思っていたけど、そんなことはなかった。
もちろん、怒ってはいたけど、まだ梶井さんのことが好きで憎むこともできずにいる。
そんな気持ちが私にも伝わってくる。
それなのに梶井さんは女の人を引き留めようとはしない。
引き留めてくれないことを女の人も理解している。

「いつになったら、あなたは自分のために特別な誰かを選べるようになるのかしら?」

「それでいいと思えないから無理だな」

「恋人ってそういうものでしょ」

「どうだろう」

不思議なやりとり。
私には二人の会話がよくわからない。

「……最後まで私の心を乱すのね」
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