私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
この席は密かに人気がある。
ここで知り合った常連さん同士がいいかんじになっちゃって、結婚した人までいる。

「ロマンチックだよね」

「ロマンチックなのはいいけど、梶井はやめておいたほうがいいよ」

うっとりとしながらディナーメニューを抱き締めていると眠そうな声に現実に引き戻された。

「べ、別に梶井さんのことじゃない……って、深月(みづき)さん!?」

前髪に隠れた目とぼんやりとした空気。
ファンの間ではぼんやりじゃない、のんびりした人だっていわれている人―――

「春は眠い」

「は?」

「忠告はしたよ。じゃあね」

もしかして、スマホを拾ったのが私だと気づいている?
声でわかったのかもしれない。
なんて耳がいいのだろう。
でも―――

「梶井さんと恋をするのもダメなの?」

誰も応援はしてくれない。
そんなに梶井さんはとんでもない人なのだろうか。
私にはそう思えなくて、ゆっくりと陽が落ちていく空を見上げていた。
この空の下に梶井さんがいるはず。
私の恋は始まっているはずなのに好きすら言わせてもらえない。
そんな前途多難な恋だった。
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