私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
「はい。また聴きにきてください」
「うん。またくるよ。もっと君のこと知りたいしね」
優しい笑顔と言葉。
とても感じのいい人だった。
私はお辞儀をして、次のテーブルへと行く。
カルメンが終わり、夜の闇が濃くなった頃、チェロの音が店内に響いた。
「ドビュッシーの月光……」
外のテーブルにいた私の目には月が見えて、降り注ぐ光が揺らいでいるような気がした。
音と同じリズムの揺らぎ。
深月さんのチェロの音はどこか物悲しくて、梶井さんの音に似ている。
深月さんが演奏しているのに私は梶井さんを思い出していた。
エプロンの中にあった名刺が手に触れ、それを無意識のうちにぐしゃりと丸めて潰してしまっていた。
会いたいのは一人だけ。
私の体の中に梶井さんの毒が巡っている。
月の光の下、目を閉じてチェロの音を聴いていた。
どこか切なくさせるその音に梶井さんを重ねていた―――
「うん。またくるよ。もっと君のこと知りたいしね」
優しい笑顔と言葉。
とても感じのいい人だった。
私はお辞儀をして、次のテーブルへと行く。
カルメンが終わり、夜の闇が濃くなった頃、チェロの音が店内に響いた。
「ドビュッシーの月光……」
外のテーブルにいた私の目には月が見えて、降り注ぐ光が揺らいでいるような気がした。
音と同じリズムの揺らぎ。
深月さんのチェロの音はどこか物悲しくて、梶井さんの音に似ている。
深月さんが演奏しているのに私は梶井さんを思い出していた。
エプロンの中にあった名刺が手に触れ、それを無意識のうちにぐしゃりと丸めて潰してしまっていた。
会いたいのは一人だけ。
私の体の中に梶井さんの毒が巡っている。
月の光の下、目を閉じてチェロの音を聴いていた。
どこか切なくさせるその音に梶井さんを重ねていた―――