私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
どうぞと私に渡してくれた名刺には戸川(とがわ)達貴(たつき)と書いてあった。
戸川家具店社長と書いてある。

「社長なんですか?」

「家業を継いだだけだよ」

輸入家具も取り扱ってるらしく、HPの案内が書いてある。

「軽い男って思われたくないんだけど、警戒した?俺は君のピアノのファンで怪しい人間じゃないよ」

ふんわりと優しく微笑む。

「私のピアノですか」

「そう。ずっと話しかけたかったけど、チャンスがなくて。今なら、声をかけてもいいような気がしたんだ」

店内にカルメンの曲が流れていた。
陣川さんの色っぽいカルメン。
底抜けに明るいはずの音だけど、それは人を誘う悪魔みたいな音なのかもしれない。
人に恋を思い出させるのだから―――とんでもないバイオリンの音。

「俺には君のピアノが合っているみたいだ。君のピアノは素直でキラキラしてるから、聴いていて楽しい」

この場で誰がそんなことを言ってくれるだろう。
こんなすごい人達の演奏を聴いていて、私のほうがいいなんて。

「私の名前は笠内(かさうち)望未(みみ)です」

「望未ちゃんか。俺のことも名前でいいよ」
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