私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
スープは野菜たっぷりのコンソメスープ。
おかわりもできる。
カフェ『音の葉』で働きだしてから、毎日の賄いが楽しみで仕方がない。

「どうぞ」

本を読んでいる達貴さんを驚かせないようにオムライスをそっとテーブルに置いた。

「ありがとう、望未ちゃん」

穏やかな微笑みに優しげな物腰。
達貴さんは読んでいた英字の本を横に置いた。

「英語、読めるんですね」

「親の意向で留学していたからね。厳しい親で習い事ばかりだったよ。望未ちゃんは?」

「私はピアノだけです。菜湖(なこ)ちゃん……姉と一緒に通っていて。中学に入る前にやめようと思っていたんですけど、やめれなくて。そのまま続けていたら、大学までずっとピアノをしてました」

私の取り柄がピアノしかなかったともいう。
菜湖ちゃんは成績優秀で大学だって、国立大を卒業して親にめんどうをかけない聡い子供だった。

「ピアノでなんとか進学しました」

私のぼんやり人生エピソードを語ると達貴さんは可笑しそうに笑ってくれた。

「そうか。お姉さんと一緒に通っていたんだ。でも、いいと思うよ。そうやって、ずっと続けられる特技があるのは羨ましい」
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