私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
波は繰り返し、繰り返し―――懐かしい記憶を揺り起こすような音。
『理滉のチェロが一番好きよ』
『私の一番の自慢なんだから』
亡くなった母のいい思い出だけが鮮明によみがえり、目を閉じた。
俺のチェロを一番好きだった母。
誰よりも俺がうまくなることを喜んでくれた。
『音大附属高校に特待生で入学なんてすごいわ』
『理滉は絶対プロになるわね』
けれど、母はもういない―――
「梶井さん?」
ピアノの音が止んで我に返った。
「ドイツから帰ってきたの?おかえりなさい」
「……ああ。ただいま。ウサギ、元気にしてたか」
「うん。やっぱりきた」
ふふっと笑われた。
「は?やっぱり?」
「渡瀬さんがね、言っていたの。今日、ここで待ち合わせしているけど、梶井さんだけ早く来ると思うからお店を開けて待っていてって」
あの渡瀬め。
なにを考えてる。
自分の行動を読まれて苛立ったが、あいつの思い通りに動いてしまった自分も自分だ。
「今の曲、悪くなかった」
「本当!?トロイメライ?今ね、生徒さんに教えている曲なの」
無邪気に笑う。
俺とは違う明るくて眩しい笑顔。
『理滉のチェロが一番好きよ』
『私の一番の自慢なんだから』
亡くなった母のいい思い出だけが鮮明によみがえり、目を閉じた。
俺のチェロを一番好きだった母。
誰よりも俺がうまくなることを喜んでくれた。
『音大附属高校に特待生で入学なんてすごいわ』
『理滉は絶対プロになるわね』
けれど、母はもういない―――
「梶井さん?」
ピアノの音が止んで我に返った。
「ドイツから帰ってきたの?おかえりなさい」
「……ああ。ただいま。ウサギ、元気にしてたか」
「うん。やっぱりきた」
ふふっと笑われた。
「は?やっぱり?」
「渡瀬さんがね、言っていたの。今日、ここで待ち合わせしているけど、梶井さんだけ早く来ると思うからお店を開けて待っていてって」
あの渡瀬め。
なにを考えてる。
自分の行動を読まれて苛立ったが、あいつの思い通りに動いてしまった自分も自分だ。
「今の曲、悪くなかった」
「本当!?トロイメライ?今ね、生徒さんに教えている曲なの」
無邪気に笑う。
俺とは違う明るくて眩しい笑顔。