私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
だから、あんな音が出せるんだろうな。
素直で綺麗で穢れを知らない。

「でも、マイペースすぎるぞ」

「そうなんだよね。先生にも注意されちゃって」

「反省しろよ。けど、俺は嫌いじゃない。もっと弾けよ」

「じゃあ、報酬ちょうだい」

サッとウサギは手を差し出した。
これ、絶対に調子に乗ってるだろ。

「わかった。目を閉じろよ。望未―――」

あのピアノに免じてウサギから人間に格上げしてやるよ。
俺の心を揺り動かすなんて、たいしたものだ。
お互いに目を閉じて唇を重ねた。
渡瀬が言うように俺はつくづく子供に弱い。
それも待っている子供に。
きっとそれは俺が母親から与えられるわずかな愛情が欲しくて、いつも母親の帰りを待っているような子供だったせいだろう。
何度も角度を変えてキスをする。
けれど、浅く。
それ以上は踏み込まないように。
こいつのため、自分のためにも。

「もういいだろ?弾けよ、望未」

真っ赤な顔をして、うなずいた。
大人ぶって男を誘ったつもりだろうが、まだまだお子様だな。

「じゃあ、張り切っていくね?」

「張り切る?」

なんだ、その宣言。
トロイメライじゃないのかよ?
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